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落語風短編小説(仮)


あらすじ

寝起きに説教された与太郎は大家を逆上させてしまい、尻を蹴飛ばされる。行く当てもなく山へ向かい芝刈りを始めた与太郎だが、すでに夕方が近づいており、朝方から芝刈りを終えていた熊さんに大きな差をつけられてしまう。
仕事を追え、川で洗濯をしていた熊さんは、大きな桃が流れ去るのを見送り、泉の女神と出会う。彼女は、熊さんのために提案を持ちかけるが……。
落語風短編コメディ、開幕でございます。

序章 たいのう(滞納)

昼過ぎに起こされた与太郎は、あくびをしながら生返事を返す。
「いいか与太郎、お前のために言ってるんだ。人の話は大事だからね。聞きたくないことも多いだろうが、ちゃんと覚えるように」
「はぁ……」
「熊さんを見習ったらどうだい。朝早くから芝刈りの仕事に行ってるんだ。それに対してお前は、家賃を滞納しているのに仕事にも行かない。その上、昼過ぎまで寝ている」
 大家の説教など、まるで聞こえていないが、話は長々と続いている。
「だから……」
「それで……」
「そうそう、短気や暴力はいけないよ。さて、今の話を聞いた上で大事なことを三つ言ってみなさい」
「お前の、話は、聞きたくない」
「なんだと、この野郎」
 激怒した大家は、与太郎を長屋の外へ蹴飛ばす。
「二度と帰って来るな。許してほしかったら、山へ行って熊さんの仕事を手伝ってこい」
「あいたたた……」
 目に涙を浮かべながら、与太郎は昼下がりの街中を歩くが、一文無しで放り出されたため、遊ぶ金など持ち合わせていない。

第一章 やきにく(焼肉)

仕方なく山へ向かう与太郎に対し、山での芝刈りを終えた熊さんは、川で洗濯をしている。
「ふぅ、今日もいい汗かいた」
 汗ばんだ着物を脱ぎ、川の中で着物を洗っていると、川上から大きな桃が流れて来て、熊さんの前を通りすぎる。
「なんだ、あれ……」
 流されていく桃を見送り、洗い終えた服を乾かしていると、また桃が流れてくる。
「まただ……。あの桃、大きすぎるだろ」
 何度も何度も桃が流れてくるが、熊さんは手を出せず、数多くの桃は拾われることもなく、広大な海へと旅立っていく……。
「なんか怖いから、そのままにしておこう……」
 その帰り道で事件が起こる。
 いくら歩いても、見慣れた道にたどり着けない。次第に熊さんは焦りだす。
「おいおい、こりゃ遭難ってヤツか」
「そうなんです」
 誰かの声がする。
「お、おい。そこに誰かいるのか」
「いません」
「じゃあ返事するな。さてはお前、キツネかタヌキだな。そうやって俺を化かそうとしても、そう簡単にはいかねえぞ」
 返事はない。
「化け物退治の呪文を唱えてやる。なむあみ………。ええと、なんだっけ。ナムルにビビンバ、キムチにビール、タン塩カルビ、やきにく、ていしょーくー」
「ぐわあああ」
「効くんかい」
 熊さんの前に、一匹のタヌキが飛び出し、震えながら呪文を止めるように懇願する。
「そ、その呪文は止めてください。ボクは #ダイエット 中なんです」
「訳の分からないことを言いやがって、続きもあるぞ。いーまーなーらー、お得な、はっぴゃく、はちじゅうえーん」
「ひええ」
 呪文の効果は絶大で、熊さんを化かそうとしたタヌキは大慌てで逃げ出す。
 すると、熊さんの周りの景色がいっせいに変わり、深い森を形作っていた木々の幻影が、煙のように消え去る。
「これに懲りたら、もうイタズラするなよ。やるなよ、絶対やるなよ」
 すると再び、木々の幻影が熊さんを取り囲む。
「らんちたいむは、ごご、にーじーまーでー」
「わああああ」
「この呪文を考えた奴は馬鹿じゃなかろうか……」
 一段落したことで気が抜けたのか、熊さんの腹の虫が鳴く。
「腹減ったな……。朝から仕事して、そろそろ昼過ぎか。そこらで魚でも釣るか」
 仕事道具として鎌しか持って来ておらず、釣竿や網を持ってきていないが、手づかみで小魚を捕まえようと思い、熊さんは水場を探す。
 しばらく歩き、熊さんは足を止める。
「ん、ここは……」
 普段は立ち入らない場所だが、そこには小さな泉がある。
「おかしくないか……」
 本能が危機を告げる。
「いま、本当に昼過ぎか」
 木々から伸びる影の向きが異なっている。辺りには何故か、複数の気配がある。それに、遠くから妙な音が聞こえる。
「な、なんだ」
 殺気もなく、不意に気配だけが飛び掛る。とっさに、手にしていた鎌で弾き返そうとするが、その衝撃は思いのほか強く、手から弾き飛ばされた鎌が泉へ落ちる。
「なんだ、あの白い石は……。見たこともねえ。おい、どこの誰だか知らねえが、こんな所に石を投げ込むな。当たったら危ないだろうが」
 怒鳴り声をあげても、返事は無い。不自然なほど丸い石は、どこかへ転がってしまった。
「まったく、謝りもしねえで」
「危ないところを、ありがとうございました」
 背後で女性の声がする。慌てて泉の方を振り返ると、そこには金髪碧眼の美女が立っている。
「う、うわ」
「驚かないで下さい。私は泉の女神です。さきほど、あなたから守っていただかなければ、私の顔に当たっていたかも知れません」
「そ、そうか。け、怪我がなくてよかったじゃねえか」
「この辺りもバブル期の再開発が進み、ゴルフ場が乱立してしまいました。時々、あのようにゴルフボールが飛んでくるのです」
「わ、訳の分からないことを言わないでくれ」
「驚くのも当然ですね。では、私を守ってくれたお礼に、好きな物を選んでください」

第二章 せんざい(洗剤)

困惑する熊さんは、この場を切り上げて立ち去ろうとする。
「金の鎌をさしあげましょう」
「見た目はいいが、いらねえ」
「では、銀の鎌はどうですか」
「変に輝いてまぶしいだけだ」
「なんと、いらないのですか」
「それより、鎌を返してくれ」
「なら、これはどうでしょう」
「金銀パールプレゼントです」
 そう言うと泉の女神は、新たな鎌を取り出す。見た目こそ使い慣れた鎌に似ているが、その柄には小粒の玉が鎖のように連なっている。
「あのな、俺の使っていた鎌を返してくれって言ってるんだ。早く返せ」
「おお、なんと無欲な人でしょう。これは特注の鎖鎌で、鉄の鎖の代わりに天然真珠をふんだんにしようした最高級品ですよ。この鎖状の真珠を敵の腕に絡ませ、動きを封じた上で鎌の刃で斬りつけることができる便利な武器だというのに、それでも、いらないと言うのですか」
「そんな物騒な物を出すな」
「お礼も受け取らずに立ち去るのですか、それでは私の立場がありません」
「あのな、人の話を聞いてるか。俺はただ、鎌を返してほしいだけなんだ」
「なら、あなたの願いを三つ叶えてあげましょう」
「もういいよ、自分で探すから。鎌が落ちてる場所だけ教えてくれ」
「鎌は泉の底にあるから取りに行けないだなんて、とても言えない」
「あっ」
 二人同時に声が出る。
「叶えられる願いは、あと二つです。わ、私とデートする権利もオススメですよ」
「平然と言いやがる……。そして、ごまかすな。そんなに探すのが嫌か。もういいよ、二つ目の願いは、また会えたら願いを叶える。ってことにしてくれ。俺は忙しいんだ」
「そんなことで、いいのですか」
「ああ、いいよ。もう面倒だからな」
「では、最後にこれを……」
 女神は熊さんの手を取り、小さなお香を渡す。
「いつかまた、お会いしましょう。粋な人、嫌いじゃないですよ」
 女神は微笑み、熊さんは顔を赤らめながら立ち去る。
「これで、いいんだよ……」

第三章 れんあい(恋愛)

それから数日後が経ち、熊さんは大家に相談を持ちかける。
「それは、もったいないことをしたね。変な意地を張らずに、女神から金銀パールをもらえば良かったじゃないか」
「まぁ、そうですねぇ……」
「熊さんや、お前の言うことも分かるが、いつまでも独り身でいるつもりかい。話があると言うから、何かと思ったが、まさか恋愛相談とはね……。いやいや、くだらない話なんかじゃないよ。確かに信じがたいが、お前さんが嘘をつくとは思えない」
 ところが熊さんはボーッとして答えない。
「さっきの話を思い出してごらん」
「お前の、話が、くだらない」
「お前もか、この野郎」
 激怒した大家が殴りかかるが、熊さんは拳を掴んで投げ飛ばす。
「熊の名は伊達じゃねえぞ」
 しかし、このことが原因で熊さんは暴行罪の現行犯として逮捕されてしまう……。
「次回、だつごく!お楽しみに」
「一昔前のラノベみたいなタイトルを付けるんじゃねえ」
 牢の中で熊さんは文句を言うが、その声は届かない。

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